デジタルマーケティング
2019年07月01日
2022年11月08日
「取材」というと、なんとなく特別な専門技能のように思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、文章を書くのと同じで、取材もまた決して専門職だけのものではないというのが私の考えです。
近年、企業サイトにおいて「自分たちで記事を更新できるようにしたい」というお客様のご要望が増えています。それに応じて、これまで以上に「書き手」の役割を担う人も増えてきていると思います。そうした方々にとって、取材は非常に有用な手段になるはずです。このコラムでは、自分自身の経験に基づく取材への考えや取り組み方をご紹介したいと思います。
「コンテンツが足りない」。「情報発信をもっと充実させたい」。企業サイトの運用において、よく挙がる課題の一つです。確かにコンテンツをアウトプットし続けるのは大変な労力のかかる仕事です。何を発信したらいいか思いつかない。どうやってネタを集めたらいいかがわからない。人知れず日々苦労されているサイトのご担当者様も少なくないことと思います。
ではどうすればコンテンツを生み出し続けることができるのか。実はきわめて確実で、しかもとてもシンプルな方法が一つあると私は思っています。それは人に取材をすること。つまり「人に話を聞くこと」を起点にコンテンツを作っていくという方法です。
アウトプットが枯渇するのは、インプットが枯渇しているから。取材対象が存在する限り、極論すれば無限にコンテンツのネタを集めることができます。考えてみれば、新聞や雑誌といったメディアが日々コンテンツを発信し続けることができるのは、絶え間なく取材を行っているからですよね。
企業サイトのコンテンツも同様です。取り上げる対象は同じでも、人に取材をすればその人なりの独自の視点や考えが現れるはず。だとすると、その考えを語っていただくだけでオリジナルのコンテンツになりえます。コンテンツを充実していくことを目指すのであれば、これほど効率的な手段を利用しない手はありません。何よりテーマを内に閉じるのではなく、外に開いて人の考えにふれる機会があるほうが、コンテンツとしてより魅力的なものになっていくのではないでしょうか。
これを徹底的に実践しているメディアとしてまず思い浮かぶのが、あの「ほぼ日」(ほぼ日刊イトイ新聞)です。ご存じの方も多いと思いますが、1998年の創刊からなんと一日も休まず更新されているという人気サイトです。
実はこの「ほぼ日」も、その膨大なコンテンツの多くが対談やインタビューによって成り立っています。そして、さらに言えば「人」こそがコンテンツであることに気づきます。もちろん、出演するのが著名な方々が多いこともコンテンツの魅力という点では大きいとは思いますが、その展開は多種多様でまったく飽きさせることがありません。
人気コンテンツの一つ、「ほぼ日手帳」を例にとって考えてみましょう。仮に「ほぼ日手帳」をただ商品として紹介するだけなら、あれほどのコンテンツの厚みを生み出すのは、もしかすると難しいかもしれません。あの一連のコンテンツが、企画として、あるいは読み物として優れているのは、「私にとってのほぼ日手帳」、つまり「対象そのものとその周辺との関係性」さえもコンテンツとして取り込んでいる点ではないでしょうか。「ほぼ日手帳」という対象について、様々な「人」に語ってもらう構造をもたせているのです。人の数だけ語るべき内容がある。「私」の数だけコンテンツはどこまでも広げていくことができる。この構造によって、一つのテーマで対象をより多面的に深堀りすることができるわけです。
コンテンツというと「何を語るか」に意識が向きがちですが、それ以上にコンテンツを決定付けているのは「誰が語るか」ではないでしょうか。「企業目線の商品カタログのような説明」よりも、「マニアがこの商品をおすすめする理由」「開発者が明かすプロジェクト秘話」のほうが断然気になりますよね。受け手の立場から考えると納得いただけるのではないかと思います。
私はこれまで仕事で数百件に及ぶインタビュー取材をしてきました。その経験を踏まえて思うことがあります。
それは、取材=「一期一会のコミュニケーション」だということです。
私が思うに、取材とは、単に発話者から取材者への情報の移動ではなく、セッションのように思考を刺激し合いながら、未知の(潜在的な)領域に、一緒に足を突っ込むこと。取材前と取材後で、お互いに違う景色が見えている…というのが理想だなと思っています。
もちろん、唯一の正解というものはないと思うのですが、この考えをぜひ皆さんに共有したかったというのがこのコラムのもう一つの目的です。
これは、取材の目的によっては該当しないケースもあると思います。報道取材のような目的の場合は厳密な客観性が重視されますので、そこに「取材者」の思考が入り込む余地は少ないかもしれません。
一方、当コラムで冒頭からお話ししている企業のコンテンツ制作のような領域においては、もっと自由に、取材者が「最初の受け手」としての感性を働かせながら、コンテンツを共創していくスタイルであってもいいのではないかと思っています。取材する側の感性によって十人十色の切り取り方があっても構わないと思いますし、取材者が変われば自然とそうなるものではないかと思います。
当然、主体は発話者の側にあります。しかし、単に事実を確認していくだけの取材であれば、問診票を順番に聞いていくような形の取材で事足ります。それは単に情報の移動にすぎず、それだけでは迫れない「おもしろさ」の領域があると思うのです。では取材者側はどのような心構えで関与するかというと、自分が取材時に意識しているのは、「その人のベースにある考え方をトレースする」ようなイメージです。その人の意識に流れている主題をつかむイメージといってもよいかもしれません。
以前、文化人類学の先生に、「人と水」をテーマに取材をさせていただく機会がありました。当然、事前に著書を読み、キーワードを頭に入れた上で取材にのぞむわけですが、あとから考えると、そのような付け焼き刃のインプットはあくまでも知識の断片…「点」と「点」の理解でしかなかったように感じます。実際に取材でお話を伺ってみると、「水」という対象を語るのに、人の営みや地球という惑星への考察、すさまじい広がりに支えられた話題が展開され、圧倒されたのを憶えています。そして、そのお話の根っこの部分には「奇跡的にデザインされた地球と生命へのリスペクト」があるように感じたのでした。
このようなテーマを扱う場合、単に取材で得た「素材」を組み合わせるだけでは、なかなかいいコンテンツになってはくれません。素材が素材のまま一つにまとまらない。ムリに力技でつなげても、インタビューに感じたポテンシャルに対して、どうしても魅力が目減りしてしまうのです。悪戦苦闘の末、私がたどり着いたアプローチは「その人だったらどのように語るか」まで理解を突き詰めて、自分の中で解釈・消化した上で、情報の取捨選択と流れを組み立てることでした。
数ある情報の中から何が必要で、そうでないかを見極めるのは、コンテンツの質を左右する重要なプロセスだと思います。このときは、主題にあるのがリスペクトだと気づくことで、自然とストーリーは一つに収斂してきました。この体験を通じて、僭越な考えではありますが、今自分がやっているのは発話者とのコラボレーションなんだな、と感じたのです。
以降、私の取材に対する考えも変わってきました。取材というより対話。受け身で聞き続けるばかりではなく、「自分はこう解釈した」「こういうことも言えるのではないか」といった「自分の考え」を示すこと。ときには自分なりの仮説をぶつけてみることで、相手も気づいていない話題へと展開できることもあるように思います。
そう考えると、取材はすでにプランワークの一環でもあるといえそうです。取り組み方によって1の素材が10にも100にもなる、とてもクリエイティブな仕事。取材後に景色が変わったと感じられるような時間となるよう心がけていきたいと思います。
プランナー/コピーライター
奥 耕平「言葉による可視化」を私の仕事と考えています。企業や商品のブランディング、様々な企画やプロジェクトのキャッチフレーズなど、コミュニケーション全般のコンセプトメイキングが得意です。形にならない思いをアウトプットしたい、思いはあるけどうまく表現する言葉が見つからない、そんな企業様の課題解決のお力にきっとなれると思います。 第38回日本BtoB広告賞「製品カタログ単品の部」銀賞 第39回日本BtoB広告賞「製品カタログ総合の部」銅賞 「製品カタログ単品の部」銅賞