
デジタルマーケティング
2025年04月22日
2025年05月14日更新
近年、AIや機械学習(ML)の進化により、デジタルマーケティング領域も大きな転換期を迎えています。
特に生成AI(Generative AI)の登場で、コンテンツ生成やキャンペーン設計が高速化・高品質化し、マーケターの関心が急上昇しています。
実際、2024年には全マーケターの74%が業務に少なくとも1つのAIツールを活用しており、前年の35%から急増しました。企業経営層でも、AIや予測分析を2025年の成長ドライバーと位置づける声が65%にのぼり、個々の顧客に最適化されたパーソナライズ施策への期待も61%の賛同を得ています。
しかし一方で、顧客側の期待と企業の実行力には大きなギャップがあります。
たとえば「事前にニーズを予測した適切なオファーを提示してほしい」という消費者は71%に達しますが、実際にそれを実現できているブランドは34%にとどまります。
また、88%の消費者が「個人データが安全かつ適切に扱われる保証」を求めていますが、対応できている企業は半数にも満たず49%にとどまるなど、信頼性の課題も顕在化しています。
こうした背景から、企業のマーケティング部門では「高度なAI技術をいかに業務に組み込むか」「データ品質や倫理性を担保しながら成果を上げるにはどうすればよいか」という課題が浮上しています。
生成AI(Generative AI):文章・画像・音声・動画を自動生成するAIツールが急速に普及
例えば、HubSpot調査では「マーケティング担当者の65%がAIでコンテンツを作成している」ことが明らかで、AIはリサーチや初稿作成などで活用され、その後人間が品質を仕上げる形が主流です。
実際、企業内でもAIパーソナライズメールの導入でコンバージョン率が82%向上した例があります。また、Google Adsでは新たに対話型AI(Geminiモデル)を使った検索広告機能が導入されており、小規模広告主でも「優れた」広告品質の達成率が63%高くなると報告されています。Canvaの「Visual Suite 2.0」なども、デザインのAI支援例として注目されています。
・パーソナライゼーション(個別最適化):顧客ごとの嗜好や行動を分析し、最適な体験を提供する手法が高度化
Adobeの調査では、AIによるパーソナライズを実現した企業では、デンマークの通信事業者Telmoreが一般施策より11%高い売上増を達成した事例が紹介されるなど、高い効果が確認されています。
英国のTSB銀行では、顧客の最新行動に基づいたローン提案でモバイルローン成約率が300%に跳ね上がりました。
国内でも、キリンビールが缶チューハイの開発に生成AIで作成した消費者ペルソナを活用するなど、大手企業が開発段階からAIを導入しています。
・チャットボット・対話型AI:顧客対応や社内業務を自動化するチャットボットも進化中
HubSpot調査ではマーケターの35%が「チャットボットを活用した迅速な個別対応」に取り組んでおり、HubSpot社内でもAIによる対応でカスタマーサポートの30%を自動解決しています。
企業マーケティングでは、ChatGPTやBardなど大規模言語モデルを搭載したBotにより、問い合わせ対応やリード育成の自動化が加速しています。
・予測分析・広告最適化:AI/MLを用いた顧客分析や広告運用の自動化も重要トレンド
Googleの「Performance Max」キャンペーンではAIが予算配分やクリエイティブ組み合わせを最適化し、米国のリテール・家電業界で19%高い広告投資利益率(ROAS)を示しました。さらに、YouTubeやGmail配信の「Demand Gen」広告では、SearchやPerformance Maxに加えて導入した広告主が平均14%多くコンバージョンを獲得しています。各ツールにAI機能が組み込まれ、従来は手作業だった入札設定やターゲティング、クリエイティブ制作までが効率化されています。
・その他のAIツール:CRMやマーケティングプラットフォームへのAI統合も進んでいます。
HubSpotではAI対応CRMや分析ツールが普及し、マーケターの74%が既存ツールにAI機能を追加して活用しています。画像生成ツール(Midjourney、DALL-Eなど)や、メール配信・SNS投稿の自動生成ツールも幅広く導入され、広告クリエイティブからブログ記事まで自動生成する事例が増えています。
HubSpotの「AI Trends Report」によれば、AI導入により「従業員の生産性向上」「マーケターの時間短縮」「AI+コンテンツ作成によるROI向上」といった効果が報告されています。
実際の事例を挙げると:
・企業・事例:
Telmore(デンマーク通信)ではAIパーソナライズで売上が11%増加、TSB銀行(英国金融)ではAIによる個別提案でモバイルローン成約率が24%から75%に上昇し売上を300%増やしました。国内ではKDDIグループがSupershipと共同開発した広告クリエイティブ自動生成AIで、ブランドイメージに即したバナー制作工数を50%削減しています。
・マーケティング実績:
HubSpot社内や顧客でも顕著な成果があります。HubSpotのマーケティングチームはAIパーソナライズメールを活用し、開封率やクリック率が大幅に改善(コンバージョン率82%増)しました。同社のセールスでは、見込み客リサーチやフォローアップがAIで自動化され、発見時間を30%、フォローアップ時間を20%削減しています。さらにサポート部門ではAIチャットボットにより年間チケットの30%を自動解決し、スタッフの負担軽減に貢献しました。
・広告成果:
Google広告のAI機能でも成果が出ています。AIをフル活用した「Performance Max」キャンペーンは、従来型自動化広告と比べ19%高いROASを実現。Demand Genキャンペーンを併用した広告主は平均14%コンバージョンが増加しています。また、リアルタイムパーソナライズで米金融大手VanguardはWebサイトのオーガニック流入を264%、コンテンツエンゲージメントを176%増加させるなど、AI活用によるインパクトを示しました。
・マーケター調査:
HubSpotの調査では、74%のマーケターがAIツールを日常的に使用し、そのうち53%が「業務効率の大幅改善」、50%が「アイデア出し・コンテンツ作成の高速化」を実感しています。多くのリーダーは「AIはチームを置き換えるのではなく強化する」と評価し、AI導入企業の約7割が生産性向上を伴う投資リターンを実感しています。
AI導入には大きなメリットがある一方で、以下のような課題・懸念が指摘されています。
・データプライバシーとガバナンス:顧客データの扱いは最大の懸念です。前述のとおり消費者の多く(88%)はデータの安全・適切な使用を重視しており、企業は厳格なプライバシー・セキュリティ対策を求められます。HubSpotも「AIに機密データを投入する前にIT部門と協議する」「信頼できるベンダーを選ぶ」といった基本ルールの徹底を推奨しています。加えて、社内で「どのデータを共有できるか」を明確化し、AI専任責任者(Chief AI Officer)を置いてガバナンス体制を整備する動きも提唱されています。
・データ品質・バイアス:AIの分析・判断は学習データに大きく依存します。不正確または偏ったデータが入力されると誤ったインサイトを招き、マーケティング戦略を誤らせるリスクがあります。実際、DataRobotの調査では「データバイアスの影響で最大62%の収益損失が起こり得る」と報告されています。対応策としては、データ収集・整備プロセスの精査や、AIモデルの透明性・説明性(Explainable AI)を確保し、定期的に結果を評価・チューニングすることが重要です。
・倫理性・信頼性:生成AIでは権利関係や誤情報(フェイク)の問題が浮上します。たとえばAIが生成した画像や文章の著作権帰属、差別的表現の除去、アルゴリズムのブラックボックス化への懸念など、倫理的な配慮が必要です。企業はAI利用ガイドラインを整備し、透明性の高い運用を心がけるべきです。Adobe調査でも「AI生成コンテンツへの透明性確保」の重要性が指摘されています。
・人的リソースの再配置:AIが浸透すると単純作業は自動化されますが、同時にマーケターには新たなスキルが求められます。「AIはマーケターのキャリア成長に貢献した」と答えた人が68%に達し、Napier CEOも「AIは退屈な業務を置き換えるが、チーム自体を消すことはない」と述べています。組織は従業員の不安に配慮しつつ、AI活用スキルの教育投資やチーム編成の見直しを進める必要があります。なお、実際にAIで置き換えられるのは分析やレポート作成などのルーチン作業で、クリエイティブな企画や顧客対応など人間ならではの領域は依然として重要です。
AI技術は今後もマーケティング領域で深化・普及し続け、BtoB/BtoC問わず多様な施策に組み込まれていく見通しです。自動生成コンテンツの質向上やエージェント型AIの登場により、キャンペーン企画から実行、検証までのサイクルが一層高速化するでしょう。
一方で、プライバシー規制や倫理基準も強化されるため、「AIは万能ではなく、人間と協働させてこそ最大効果を発揮する」という姿勢が引き続き求められます。HubSpotでは「AIを過小評価も過大評価もせず、AIと共創(co-create)して成果を最大化する」ことが重要と説かれています。マーケターは技術トレンドを追いながら、自社のデータ統合や組織体制を整備し、責任あるAI活用で顧客体験を革新していくことが求められます。これらの取り組みが進めば、広告クリエイティブの自動化やパーソナライズの高度化が進み、デジタルマーケティングのROI向上や顧客満足度の向上につながるでしょう。
なお、大伸社ディライトでは、生成AIの活用支援はもちろんのこと、企業の目的に沿ったデジタルマーケティング戦略の策定から、実行・改善までを一貫してサポートするソリューションをご提供しています。
コンテンツ制作、業務効率化、顧客体験の向上に向けた取り組みをご検討の方は、ぜひお気軽にご相談ください。
※参考資料: Google、Adobe、HubSpot、Forbes JAPAN、MarkeZine等の業界記事を基に作成
Marketers double AI usage in 2024
https://www.hubspot.com/company-news/marketers-double-ai-usage-in-2024
AI is a bold opportunity — for both brands and consumers.
https://business.adobe.com/resources/digital-trends-report.html
New features and controls for your AI-powered campaigns
https://blog.google/products/ads-commerce/google-ads-ai-features-update-september-2024/
マーケターが選ぶ2024年の生成AIトピックス1位は「キリンビールのペルソナ活用」Freeasy調べ
https://markezine.jp/article/detail/47654
ビジネスコンサルティング部 部長
山本 大輔BtoB企業、教育機関のブランディング・マーケティング支援に従事。上流の戦略策定からコアバリュー定義、リード獲得・育成の仕組み構築の伴走支援が得意。 ・保有資格 ウェブ解析士