2024年09月02日
※このブログ記事は、著者の許可を得て転載しています。
元の記事はこちらに掲載されております。
行動変容において、強力なツールとなり得る「ソリューションダイアグラム」について、その進め方を事例を交えながらお話しします。
復習になりますが、COM-Bモデルは、人の行動を変える妨げになる要素を3つの観点から分析するものでした。例えば、「区民がゴミの分別を行う」という行動を促したいとき、次の3つの「ブロッカー」を考えることができます。
1.Capability(能力):ごみの分別について正しい知識がない(複雑過ぎて覚えられない)
2.Opportunity(機会/環境):ごみ置き場がゴミを分別できる仕様になっていない
3.Motivation(動機):(周囲の住人もごみを分別していないので)自分ひとりがやっても無意味だと感じる
などが挙げられます。
次に、COM-Bモデルによって得られた多くのインサイトの中から、特に重要な「MOT(Moment of Truth=真実の瞬間)」を見つけ出します。MOTとは、ユーザーが次の行動を決定する重要な瞬間のことを指し、この瞬間がユーザーのその後の行動全体を左右することが多いものです。
例えば、ある教育アプリを導入する際に、初めて使ったときの操作性や学習の効果が分かりやすいかどうかが、ユーザーが継続的に使用するかどうかを決めるMOTになることがよくあります。このようなMOTを特定することで、どこに焦点を当てて介入すべきかが明確になります。
特定したMOTを「ソリューションダイアグラム」という表を用いて評価します。ソリューションダイアグラムとは、各インサイトやMOTに対して、どのような介入タイプが有効かを、視覚的に整理するためのツールです。
ブロッカー/ブースターのタイプごとに、最適な介入方法が確認できるダイアグラム。これは過去の研究結果から特定されたものであり、ユーザの行動を変えるためのアイデア創出を、確度の高いプロセスをもって進めることが可能になります。
そして、ソリューションダイアグラムから分かった「介入のタイプ」を決定し、それに基づいて具体的な介入策を設計します。この介入策が、行動変容を促進するためのアイデアの方向性となります。
先ほどの例でいえば、「ごみの分別について正しい知識がない(複雑過ぎて覚えられない)」というCapability(能力)に関わるインサイトだったため、ダイアグラム上では、“内面“ד有効化”に対応することが分かります。そのため、「ルールやツールなどの変更により、望ましい行動を取りやすくする」という解決の方向性が得られる、ということになります。
“内面”ד有効化”の方向性で、事例をひとつ紹介します。それが、墨田区の「ごみ分別案内チャットボット」です。
ゴミ分別の相談をAI猫がチャット形式で応えるもので、このサービスのポイントは、ユーザーの「動機」(Motivation)に直接働きかけるインタラクティブな切り返しです。たとえば「捨てたいもの」に対して「噂」と入れてみると、AI猫が「シェイクスピアは、『悪口を言われて我が身を正すことのできる人間は幸せというべきだ』と言っていたよ」とユーモアを交えて応じます。これにより、分別という日常的なタスクが楽しい体験に変わり、ユーザーが積極的にゴミ分別の知識を得ることを促進するものといえるのではないでしょうか。
https://www.city.sumida.lg.jp/kurashi/gomi_recycle/kateikei/oyakudachi/gomi-bunbetu-chatbot.html
今回は、インサイトをどうアイデア開発に活用するか?その時に有効な「ソリューションダイアグラム」とアイデア事例のご紹介でした。