2015年10月29日
ビジネスにおいては、新規顧客と既存顧客、いずれも重要な存在です。うち、新規顧客を確保することに力を入れている企業は多いでしょう。
新規顧客の確保に力を入れることは、当然ながら重要なミッションです。しかし、「既存顧客を維持(リテンション)し、売上を立てる」という点については、施策が不十分なケースが少なくありません。
やはり新規顧客の確保にばかり目がいき、既存顧客への対応は後回しになりやすい部分があります。しかし既存顧客をきちんと維持しなければ、企業の売上は低減してしまうものです。一方、維持できているのであれば、企業の売上を安定的に確保しやすくなります。
今回は、「既存顧客やリピーターを維持することが重要である理由」「既存顧客を維持するために必要な施策」「既存顧客からの売上を向上させるための方法」などについて解説します。
本記事を参照に、既存顧客の維持に対する施策を明らかにしてください。
そもそも、既存顧客がどういった存在なのか、一度確認しておきます。
既存顧客は、言葉のとおり「すでに自社との取引や契約をある顧客」のことです。長期的な取引・契約がある場合は、「得意先」というように呼ばれます。また、大きな取引や契約がある場合、「大口顧客」などと言われるものです。
ちなみに既存顧客の対義語に当たるのが、いわゆる「新規顧客」。企業の立場から見れば、顧客というのは上記ふたつに大別されます。
既存顧客を管理するうえでは、「顧客維持率(LTV)」が重要な指標となります。顧客維持率とは、「ある期間において、継続した取引がある顧客がどれほど存在するか?」を示す指標です。
一般的には、ある期間における売上を維持する顧客の割合という形で示されます。顧客維持率を正しく観察することは、自社のさらなる売上拡大やサービスの充実、あるいは新規事業展開へのヒントへ繋がります。
顧客維持率を正しく観察し、既存顧客やリピーターを適切に維持することが重要です。
既存顧客・リピーターの維持に注力するのが重要な理由は、主だったところで言えば以下5点が挙げられます。
それぞれについて、詳しく解説します。
既存顧客を維持することは、長期的なベネフィットの発生につながります。多くの既存顧客を維持していれば、当然ながら長期的に安定した利益が発生するのです。
いわゆる「サブスクリプション」と呼ばれるサービス形態においては、これはたいへん重要だといえます。
多くの既存顧客がサブスクリプションに登録している状態を保つのは、いずれの企業も理想としているところ。ただ、サブスクリプションにおける本来の有用性は、「既存顧客が適切に維持される」ことを前提としています。
また、顧客獲得や市場開拓に費やされたコストを、長期的なスパンで取り戻していく、という側面もあります。つまりサブスクリプションという戦略を成立させるうえで、既存顧客を維持することは必要不可欠となります。
それができていなければ、初期投資のみを費やし、安価なサービスだけが供給されたという形になりかねません。したがって既存顧客を維持することで、ローンチで必要となった費用が回収され、最終的には長期的なベネフィットへつながるというわけです。
既存顧客の維持(離脱)については、「5:25の法則」というものがあります。5:25の法則が意味するのは、「顧客の離脱率を5%改善すれば、利益は少なくとも25%回復する」という法則です。
この法則は、絶対的なものではありませが、既存顧客を維持することの重要性をもっともわかりやすく表現しています。
25%の利益を新規顧客で回復することは、たいへん難しいことです。それよりも既存顧客の維持を徹底したほうが、ベネフィットに繋がるということが示唆されています。
既存顧客を維持することは、新規営業ばかりを展開する場合と比較して、しばしば合理的です。なぜなら、「既存顧客を獲得するためのコスト」は、「新規顧客を獲得するためのコスト」よりも低いから。
つまり新規営業よりも、既存顧客から継続的に利用されるほうが、合理的に売上を確保できるのです。
既存顧客に関しては、「1:5の法則」が存在します。「1:5の法則」とは、以下のようなものです。
<既存顧客を維持するコストは、新規顧客を獲得するコストの1/5程度である>
1:5の法則が適用される限り、既存顧客を維持するコストは、比較的低減されます。このように考えれば、新規営業よりも既存顧客を維持することが、企業にとっては重要です。
新規顧客を獲得するためには、リード顧客に始まり、アポイント確保や営業活動の成功など、さまざまなステップをクリアしなければいけません。こういったステップを踏み続けるのがたいへんな苦労であることは、言うまでもないでしょう。
しかし既存顧客を維持する場合、新規営業ほど複雑なステップはありません。また、自社と既存顧客の間に信頼関係があれば、維持に求められる施策もスムーズに機能します。
もちろん、全てのプロダクトやサービスについて上記法則が完全に合致するわけではありません。また、新規顧客を獲得することも、自社の次なるビジョンを達成するうえで重要です。
しかし、コストと売上という一点だけで考えた場合、既存顧客を維持することのほうが合理的だと言えます。
既存顧客を維持することは、自社のポジティブな評価を維持するという効果ももたらします。なぜなら既存顧客が離脱しないということは、「自社のプロダクトやサービスについて満足度を感じている」と言えるからです。
たとえば、長きにわたって自社プロダクトを継続して利用している顧客がいたとします。すると、その顧客は自社プロダクトについて、外部へネガティブな情報をもたらすことは、考えづらいです。
むしろ「このプロダクトは優れている」というようにポジティブにアウトプットするのが自然だと考えられます。そうすることで、既存顧客を維持することは、自社の評価も維持(向上)されるわけです。
もしかしたら既存顧客が、「現在、我々が利用しているサービスを使ってみてはどうか?」などと言って、新規顧客を連れてくるかもしれません。
一方で既存顧客の離脱が多い場合、自社に対してネガティブな評価が広がる可能性が高まります。 特に短期で離脱されることが繰り返されるといったことがあれば、注意が必要です。
離脱した顧客は、外部に対して、自社についてネガティブなアウトプットをすると考えられます。そうなれば、新規顧客の獲得において、悪影響が出るかもしれません。
さらには、別な既存顧客がネガティブなアウトプットを認識するなどして、スイッチングが誘発されるケースもあります。
既存顧客を維持することで、継続した契約が得られ、さらなるビジネスの隆盛へ繋がることが期待できます。なぜなら、継続した契約は、以下のような部分へつながるからです。
既存顧客を維持することには、連鎖的にさまざまなメリットがあります。もちろん、既存顧客の維持さえやっていれば、ビジネスのすべてにおいて隆盛するわけではありません。
並行して、さまざまなビジネス活動があって、初めて隆盛がもたらされます。しかし既存顧客を維持して、ある意味で「支えられている」状態になることは、今後のビジネス展開において一助となるのは当然のことです。
別な角度で考えれば、「現在の日本市場では、既存顧客を喪失しやすい」という部分も関係しています。かつての日本市場では、消費者や利用者のニーズが顕在的で、認知しやすい部分がありました。
しかし近年は、(業界や商品種別にもよる差異はあれど)消費者や利用者のニーズは潜在的になっています。また、そのニーズも多様化しており、より正確なアンサーを提示するのが難しくなりました。
さらには競合他社との競争もし烈になり、既存顧客を長期的に維持しづらい状態が出来上がっています。一度獲得した既存顧客の今後における確度は、以前と比較して不安定なものです。
したがって、この日本市場で適切な手段を取り、損失の回避と売上の確保へ尽力する必要があります。つまり、長期的に安定した利益を「守る」という重要なミッションのために、既存顧客を維持することは必要となります。
既存顧客やリピーターを維持するうえでは、さまざまな施策が用いられます。こうった施策は「リテンション・マーケティング」と呼ばれ、企業にとってはたいへん重要な存在です。
具体的な施策としては、以下8つが挙げられます。
もちろん、8つの施策があらゆるサービスやプロダクトに適用できるわけではありません。しかし、基本的なリテンション・マーケティングとして活用する場面は多く、きちんと知っておく必要があります。
既存顧客やリピーターを維持する上で基本となるのは、「価値を提供し続けること」です。当たり前のことですが、これはたいへん重要で、価値を提供し続けなければ、いずれ顧客は離脱してしまいます。
つまり、プロダクトやサービスについて、いつでもすぐれたものを供給することが重要です。
一例を挙げれば、「ワン・ストップ・サービス」という形式が考えられます。既存顧客に対してスムーズな対応を実施することで、満足度を得ることが可能です。
顧客はストレスや時間的リソースの消費を避け、より快適に自社製品を使用します。対応がスムーズであることは、自社商品に対する印象さえ、向上させるかもしれません。
既存顧客は、一度契約したからといって、プロダクトやサービスに完全な満足を抱いているとは限りません。既存顧客の意見を聞いた上で、プロダクトやサービスを精錬させる努力が重要です。
プロダクトやサービスが既存顧客のニーズを満たし続ければ、離脱されるケースは減らせます。もちろん顧客に対するサポートといった面で、継続的にレベルアップさせることも重要です。
つまり、既存顧客に対しては、すぐれた価値を提供し続けなければいけません。それがあって、初めて細かなリテンション・マーケティングが成立すると考えておく必要があります。
既存顧客やリピーターを維持する上では、「その事業について、基礎部分を自社プロダクト・サービスで構成する」ことが重要です。これは既存顧客を維持、あるいは安定的なベネフィットを確保するうえで、きわめて重要な手段となります。
たとえば既存顧客が、飲食店事業において、全店舗で自社の売上管理システムを利用していたとします。すると、その売上管理システムが失われた場合、「売上管理」という事業のもっとも基礎的な部分が失われるのです。
すると既存顧客としては、売上管理システムを利用し続ける可能性が高いと言えます。
仮に売上管理システムのスイッチングを実施されるにしても、それは簡単なことではありません。スイッチングする場合、新しい売上管理システムの使用について、全店舗へ周知、教育することが必要です。
もちろん、初期費用やシステム保守に関わる費用も必要です。当然ながら、「それでも必要である」と考え、スイッチングがなされる可能性も否定できません。
しかし、事業について基礎部分を自社プロダクトで構成することで、スイッチングが起こりづらくなります。よって既存顧客をそのまま抱えることができ、維持へと繋がります。
既存顧客についてデータ化して、マーケティングベースで管理することも重要です。なぜなら、データを元に対応すれば、顧客維持について適切な対応が取れるから。
マーケティングベースで管理するためには、さまざまな方法が考えられます。たとえば、顧客管理ソフトによる管理や、プロダクトの使用状況を観察するといった方法。
あるいはアンケートを実施し、顧客の満足度や要望をつかむといったことも重要です。また、既存顧客のデータを分析し、既存顧客の維持状況を評価することも可能になります。
先ほど、既存顧客の維持について、顧客維持率という指標を紹介しました。もちろん、これも既存顧客をデータ化することで、顧客維持率を知ることは可能です。
ただし、既存顧客を高水準で維持する場合、それ以外にもデータに基づいたさまざまな指標で計測することが重要となります。たとえばCSやNPSや、アップセルにおけるCVRなどは、既存顧客の維持において大切な指標です。
こういった指標を掴むためにも、既存顧客についてデータ化してマーケティングベースで管理するのは重要だと言えます。ただし、維持しようとしている既存顧客が、データどおりの様態を持つわけではありません。
後ほど詳しく解説しますが、データを根本的な根拠に持ちつつも、既存顧客一人ひとりが有する特有のニーズに応える努力も必要です。
また、ニーズに応えたうえで特別な価値を付与する「ロイヤリティ」も、重要となります。ロイヤリティについては後ほど詳しく解説するので、参考としてください。
既存顧客を維持するためには、フォローアップが重要な役割を果たします。フォローアップとは、一言で言えば既存顧客に対して、不便がないか伺い立てるアクションです。
フォローアップの回数は、既存顧客の満足度を大きく左右します。フォローアップが充実していれば、「我々を重要視し、適切なサポートを提供しようと努力している」などと評価されやすいはずです。
フォローアップで何かが解決されることが必要なのではありません。「よりよい形で力になれないか」という姿勢を見せることが重要です。
できる限りのフォローアップで、既存顧客との信頼関係を築くことが基本線となります。
また、手厚いフォローアップが実現されるように、社内の体制を整えることも需要です。しかし、新規顧客の獲得ばかりを優先してしまい、既存顧客へのフォローアップが不足するケースは多々あります。
これでは、先ほど触れたように、コストがかかる新規顧客の獲得に頼らなければいけません。新規顧客の獲得から得られる利得に依存する状態は、ことサブスクリプション形態のビジネスでは望ましくありません。
そうではなく、新規顧客と既存顧客のバランスに配慮した、適切なフォローアップで信頼関係を築くことが重要です。
既存顧客ごとに適切な対応を実施することは、たいへん重要です。維持したいと考えている既存顧客は、一様に「こうしたい」と考えているわけではありません。
既存顧客ごとで類似することはあれど、基本的に個々で異なるニーズや要望を有しています。したがって「特定の既存顧客は何を求めているのか」を理解することが重要です。
たとえばある顧客について、自分とは無関係な電話連絡やメールが入り続ければ、それに疲弊するかもしれません。また、明らかに一斉送信のメッセージばかりが届いていては、顧客と自社の間には精神的な距離感が生じます。
もし既存顧客ごとについて適切な対応を考えていなければ、こういった「すれ違い」のある対応が繰り返されるはずです。
しかし、既存顧客ごとに何が対応として必要なのか理解できていれば、こういったケースは減らせます。むしろ、「我々のことを理解しようとして、適切なサポートを提供している」と評価されるはずです。
たとえば、自社がセキュリティシステムを提供していたと仮定します。そして、ある顧客が「セキュリティシステムについて、より軽量化したい」と考えていたとします。
だとすれば、「上位グレードに当たるセキュリティシステムの実績」ばかりがメッセージ送信されるのは、望ましいことではありません。
しかし既存顧客のことを理解していれば、「セキュリティシステムが機能していても動作速度を確保する方法」を提供すべきだと判断できるのです。
というように既存顧客ごとの考えを知り、適切な対応を個々に実施することは、重要となります。これを高い正確性に基づいて実施できれば、既存顧客の維持へとつながるはずです。
先ほど、顧客をデータ化して、マーケティングベースで管理するのが重要だと解説しました。しかし、それでは顧客が個々に求めるものを完全に理解し、満たせるとは限りません。
だからこそ一つひとつのケースにおいて、何がサービス、サポートとして必要なのか検討する必要があるというわけです。
既存顧客を維持するには、担当者のモチベーション管理がたいへんに重要です。なぜなら、担当者のモチベーションが高ければ、既存顧客の満足度も高まるから。
担当者が自社へ抱いている満足度は、既存顧客への対応に反映されます。たとえば担当者が自社へ高い満足度を感じている場合、既存顧客についても丁重な扱いがなされるはずです。
一方で担当者の満足度が低い場合、既存顧客への応対品質は劣化する場合もあります。従業員が会社に対して不満を抱いている状態だと、既存顧客への態度にそのまま反映されることが多くなってしまうのです。
こういった満足度の強弱は、
など、細かい部分であらわになります。顧客の満足度のみならず、従業員の満足度にも着目することが重要です。
「このように接遇せよ」と、教育するだけでは十分ではありません。「君も、顧客には誠心誠意を尽くして欲しい」と言って、担当者から納得を得られる関係性が必要となります。
なお、既存顧客の維持と内部での満足度の相関を理解している企業は、多くありません。知っていても、具体的な施策を取っているケースは限定的です。
つまり既存顧客の維持を睨んで、内部での満足度について施策が打てれば、他社と比較してひとつの差別点が確保できます。
既存顧客を維持するとき、ロイヤリティの向上は強力な施策となります。ここでいうロイヤリティとは、「長らく契約・利用している既存顧客による、自社への愛情・愛着・信頼感」という意味。
ロイヤリティを向上させるには、第一に「顧客へ適切な価値を提供する」ことが重要です。つまり普段から、「契約しているプロダクト、および取引先は、価値あるものだ」と思ってもらわなければいけません。
そして、適切に価値提供したうえで、通常のサービスやサポート以上のプラスアルファを提供します。
たとえば、
といったものが、ロイヤリティを向上する方法として考えられます。
しかし、ロイヤリティとして何が必要かは、やはり顧客ごとで異なるものです。先ほど触れた「既存顧客ごとで適切な対応を取る」というのは、ロイヤリティの向上にも通づる部分があります。
つまり顧客ごとの状況を整理し、個々にとって適切なロイヤリティ向上を図ることが、ある程度求められるというわけです。
ただし、すべての既存顧客を維持する必要はありません。なぜなら、すべての既存顧客が、自社の売上などに貢献するわけではないからです。
中には交通費や接遇費の関係で、「売上よりも、維持するためのリソースやコストの方がかかる」というケースもあります。そういった既存顧客については、少なくとも積極的に維持するべきではないです。
また、いつでも既存顧客の維持を狙うことが適切だとは限りません。マーケットやプロダクトによっては、既存顧客を優先すべきではないケースもあります。
たとえばマーケット自体が発展途上だった場合、他社よりも多くの新規顧客を獲得することが重要です。ここで既存顧客の維持に振り切っていた場合、本来獲得できたはずの新規顧客を取りこぼすかもしれません。
プロダクトを軸にして考えれば、後述するアップセルやクロスセル(既存顧客への営業)が難しい場合、既存顧客の維持の優先度は低くなります。よって、いつでも既存顧客の維持を第一に考える必要はありません。
同様に、「すべての新規顧客を獲得しなければいけない」というわけでもありません。なぜなら、すべての新規顧客が利益につながるわけではないからです。
中には、既存顧客として抱える方が、ランニングコストの問題を引き起こす場合もあります。また、プロダクトやサービスについて過剰なサポートを要求することもあるかもしれません。
そのような事態が予測できるのであれば、あえて獲得しないという判断も、時には求められます。つまり既存顧客を獲得、維持するうえでも、「その質を高めること」も大切なのです。
この点については、営業担当者の理解が必要となります。
実のところ、既存顧客を維持しつつ、更なる売上を得ることも可能です。もしかしたら、「そのようなことができるはずはない」と感じるかもしれません。
しかし、既存顧客に対して以下のような営業施策が取れれば、このミッションは達成できます。
サブスクリプション的なプロダクトにおいては、売上を高めるうえで上記2種類の施策がたいへん重要です。それぞれについて、下記で詳しく解説します。
クロスセルとは、一言で言えば、「契約しているプロダクトとサービスに関連づいたものを提案する」という営業手法です。これにより、既存顧客の維持と並行し、売上の向上を見込めます。
たとえば自社製の端末利用を契約していたとします。そして端末に関連する周辺機器やサービスを提供し、売上を増やすやり方です。
既存顧客は、プロダクトやサービスを利用している中で、「もし、こういったものがさらに追加されれば、より望ましい」と考えつきます。そのニーズに対して適切なクロスセルがあれば、双方にとってよりよい契約のあり方へと変化するのです。
もちろん、「何がニーズで、何を提供すればそれに応えられるか」を知ったうえで、クロスセルを実施することが条件となります。
アップセルは、既存顧客に対して、「現行の契約に対して上位互換となるプロダクトやサービス」を営業する施策です。
たとえば、月額100,000円のサービスを契約していたとします。そして、顧客のニーズを理解したうえで、「より多機能な上位サービスを導入しませんか」とはたらきかけるのです。
上位サービスが120,000円であった場合、クロスセルにて月20,000円の売上が上乗せされます。
アップセルを活用することで既存顧客は大口化され、既存顧客を維持しつつ、売上も拡大することが可能です。アップセルが成功し続ければ、次第に既存顧客から得られる売上も長期的に大きくなります。
ただし、上位互換のプロダクトやサービスを売り込むには、それ相応の理由が必要となります。つまり、既存顧客のニーズを理解し、その適切な解決策として、アップセルしなければいけません。
ちなみにアップセルは、新規顧客獲得と比較して、コストがかからない方法であると言われています。Pacific Crestによれば、「新規顧客獲得において1ドルの売上を得るには、アップセルで1ドルを売り上げることの25倍ほど、コストが必要である」とのことです。
つまりアップセルによる既存顧客の維持は、売上を向上させるうえで、実にコストパフォーマンスのよい手段だと言えるでしょう。企業によっては、アップセルのみを実施する部門が立ち上がるほど重要視されています。
(参考:Pacific Crest)
既存顧客からの売上を確保することは、当然ながら重要なミッションです。しかし、クロスセル・アップセルに失敗してしまい、むしろ既存顧客を失ってしまうケースもあります。
たとえば、
といったパターンは、本当によくあるものです。こういった失敗を避けるためには、以下のような点について理解しておかなければいけません。
いずれにせよ、既存顧客のニーズや状況を深く知ることが重要です。それを踏まえたうえで、受け入れられやすいクロスセルとアップセルの実施が必要となります。
企業にとって、既存顧客と新規顧客は、いずれもきわめて重要なファクターです。しかし、新規顧客の開拓ばかりに注力するのは、ビジネスにとってよいことではありません。
そもそも既存顧客を維持することが、新規顧客の獲得よりも合理的な場面は非常に多くあります。だからこそ既存顧客の維持についても、バランスよく考えておくことが重要となります。
適切に維持できれば、企業には安定的な売上がもたらされるはずです。そのためには、本記事で解説したような既存顧客維持を目的とした施策について、組織単位で取り組むことが求められます。
既存顧客の維持については、「囲い込み」と言えば、少し聞こえが悪いかもしれません。しかし、これ自体も立派な「リテンション・マーケティング」であり、企業にとっては重要なミッションです。
コンサルタント
荻田 勝也デジタルマーケティング領域における戦略策定から施策実行までのプロジェクトマネジメントを担当。 ビジネス成果の貢献に向けて、既存の枠に捉われない新たな枠組みや仕掛けを考え・実現していきます!