2025年04月07日
経営理念や企業の価値観を社員に理解・体現してもらうには、単に標語を掲げるだけでなく、研修やワークショップ、OJT、社内対話などを活用した継続的な教育の仕組みが重要です。経営者の想いを「社員の言葉」に翻訳し、日々の業務で実践できるようにするには、社員自らが理念について学び考える場を設ける必要があります。以下に、教育プログラムとインナーブランディングを連動させている企業事例を紹介します。
東京ディズニーリゾートは、徹底した社員教育を通じて高い顧客体験価値を生み出している代表例です。キャスト(従業員)向けの研修プログラム「ディズニー・ユニバーシティ」では、入社時に複数日かけて座学研修を行い、その後も定期的に受講を継続します。研修内容は業務オペレーションではなく、ウォルト・ディズニーが掲げたパークのビジョンや、「5つの鍵(Safety〈安全〉・Courtesy〈礼儀正しさ〉・Inclusion〈インクルージョン〉・Show〈ショー〉・Efficiency〈効率〉)」と呼ばれる行動規準など、ディズニーの哲学や価値観に重点が置かれています。
これらの理念と行動規準は研修でも現場でも繰り返し語られ、キャスト全員に共有されます。その結果、生まれた「ディズニーらしい」振る舞いは社内で表彰される仕組みにもなっており(例:「マジカルディズニーキャスト」や上司からカードを贈る「ファイブスター制度」)、社員の自主的な模範行動を称賛・強化しています。80%以上がアルバイトである約2万人のキャスト一人ひとりが高品質なサービスを提供し続けられる背景には、このような体系立てた理念教育と社内表彰を通じたインナーブランディングの成功があります。
スターバックスは広告を一切打たずにファンを生み出した企業として知られており、社員が体現する顧客体験そのものをブランド力に昇華させた好例です。その原動力となっているのが徹底した従業員教育で、アルバイト一人に対して約80時間にも及ぶ研修プログラムを用意しています。
コーヒーの淹れ方や丁寧な接客などスキル面のトレーニングのみならず、「なぜそれをするのか」という業務の背景にある理念や目的を考えさせる教育に重点を置いているのが特徴です。例えば、研修の中でスターバックスの歴史や大切にする価値観、サービス哲学を学ぶ時間を設け、従業員自身がスターバックスの使命を自分ごと化できるよう工夫しています。
こうした取り組みの結果、スターバックスの従業員はブランドに対する誇りと熱量が非常に高く、スターバックスが大好きで入社する人が多いと言われます。実際、何らかの事情で退職しても「給料が半分になっても戻りたい」と語る人がいるほどで、その帰属意識と愛着心が強力な企業文化を支えています。従業員一人ひとりの高いエンゲージメントこそがスターバックスブランドの雰囲気をつくり上げ、お客様に選ばれる理由となっているのです。
経営破綻から奇跡的な復活を遂げたJALの再生を支えたのは、稲盛和夫氏が提唱した「JALフィロソフィ(哲学)」の全社員への浸透でした。稲盛氏はリーダー研修の場で「社員が考え方を共有することの重要性」を繰り返し説き、当時の大西社長も「JALグループ全体の共通言語」を作りたいという考えのもと、様々な部門から選ばれた10名の社員と共にJALフィロソフィを策定しました。
出来上がった哲学手帳にはJALグループ社員が持つべき価値観・考え方がまとめられており、2011年1月に社内公開されています。哲学手帳は「必ず上司が直接手渡しする」よう徹底され、さらに朝礼や終礼で手帳を輪読する時間を設けるなど、社員が日常的に哲学に触れる機会を作りました。
加えて、2011年4月からは全社員を対象にした「JALフィロソフィ教育」をスタート。年4回・3ヶ月ごとに2時間ずつ、部署や役職を超えて様々な現場の社員が一緒にグループ討議する研修を全社で実施しました。研修の進行役(ファシリテーター)には現場出身の社員が任命され、講義形式ではなく現場視点の対話型で進行されるのも特徴です。
このように社員主導の対話型学習によって、経営者の想いが自分たちの言葉で語られ腹落ちしていく仕組みを作り上げたのです。
単なるトップダウンの説明ではなく、社員が自分の言葉で理念を語り合う機会が必要です。JALのように哲学策定プロセスに社員を巻き込んだり、ディズニーのように創業者の想いを現場のストーリーとして伝える研修を設計することで、理念が現場目線の理解へと落とし込まれます。
理念浸透は一度の研修で完了するものではなく、継続的な補完が不可欠です。ディズニーが入社後も定期研修を続けているように、JALも日常の朝礼や定期研修で繰り返し価値観に触れる仕掛けを組み込みました。経営者は「社員が理念を日々意識する環境」をデザインする必要があります。
教え込むのではなく、社員が自ら気づき学ぶ場づくりが効果的です。スターバックスの研修では「なぜ」を問う対話を重視。JALも講師役を現場社員に任せることで上下の壁を取り払い、受講者の積極的な参加を促しています。
インナーブランディングの最終目的は顧客への価値提供と業績向上につながることです。ディズニーでは研修→行動規準の浸透→顧客満足というサイクルが明確に回っています。スターバックスも徹底教育により店頭でのブランド体験価値を高め、結果として広告以上の効果を生んでいます。経営者は「社員体験の向上が顧客体験の向上を生む」ことを念頭に、教育投資をコストではなく長期的なブランド構築戦略と捉える視点が重要です。
経営者の想いを社員にどう届け、どう行動に落とし込んでいくか──。
大伸社ディライトでは、理念の再整理から教育設計、発信支援まで一貫してご支援しています。
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